移動する販売を考える初夏 /松井宏次

初夏を迎えて、色とりどりの花とともに、山々の木々の緑もとりどりです。
新緑の季節です。焼き芋は冬季限定、夏はかき氷という、「移動する竹村商店」さんの商品が、そろそろ切り替わるころだろうなどと、ふと思い浮かべています。

■今年、2022年3月に開催されたITカンファレンス京都。その事例報告で登壇された事業者のうちのお一人が、移動する竹村商店の竹村店主。焼き芋の仕事を引退するという「師匠」から譲り受けた移動販売車の修理費をクラウドファンディングで集め、移動販売車の場所をSN Sで伝えながら流し売り。「子供たちが大人になったとき、へんな焼き芋屋さんがあったなぁって、思い出して欲しい」起業に、そんな思いがあったのだそうです。

移動する竹村商店のツイッターはこちら
https://twitter.com/take_yakiimo
紹介記事は、例えばこちら。この記事は、COVID-19禍の前に書かれています。
https://kyoto-iju.com/person/hito_18

「移動販売」は、COVID-19禍をめぐって着目された動きのひとつです。
車による物品販売だけをみても、移動スーパーからキッチンカーまで、業態に応じてさまざまな移動販売がありますが、ここでは、食に関する移動販売を主に取り上げます。車を用いる場合が多く、フードトラックと呼ばれたりもします。
COVID-19禍の広まりとともに、食の移動販売のニーズは激減しました。感染予防のための行動制限の度重なる実施。各地、さまざまん、人が集まるイベントがなくなり、オフィス街から人が消え、あっという間に営業の場が無くなってしまいました。

ところが、ご存知のように、反転するかのように今再び移動販売が注目を集めています。例えば、外食産業では、COVID-19禍に伴う環境変化への対応として、テイクアウトやデリバリーに次いで登場した、新たな解決策として扱われています。
店舗を持つことに比べて、イニシャルコストが断然低く、参入しやすい移動販売は、かたや、事業の継続率も低いとされています。そうしたことも含め、今、増えつつある移動販売は、以前の事業者の復活よりも新たな事業者の登場だと推測して良いようです。
また、移動販売を行う場所や機会と、販売事業者とのマッチングサービスも目立ってきています。自動車販売会社がそうしたマッチングから、車両のリースまで一貫して提供、といった取り組みは、私の身近でも行われています。

従来の公的な資料や研究論考では、多くの場合、移動販売は、買物弱者への対策として取り上げらていました。高齢者見守りとしての役割も期待されながらです。
今回の、移動販売のクローズアップでは、そうした対策や役割への期待も見聞きします。これまででは、そうした買い物弱者、高齢者に焦点をあてた取り組みは、何らかの公的な助成がないと、収益目処がつきませんでした。今後は、何かブレイクスルーがあるのかも知れません。

食の商品やビジネスは、何よりも「味」、そして、「安心・安全」や「機能性」といった事項を核に、どのような「利便性」や「外観」が備わっているか。お客様にとってのそうした全体の「価値」が、「価格」を越えているか、といった視点で捉えることができます。今は、そこに「楽しさ」の提供という視点を加えて考えることが適切です。

前述の、移動する竹村商店さんもまた、それを備えています。食とともに楽しさもお客様の近くにやって来る。カンファレンスに参加されたかたは、その様子を感じられたと思います。
楽しさを提供しようとするとき欠かせないこと。最近はあまり聞かなくなった言いかたを用いるなら「タンジブル tangible 」。触れられる、実態があるもののこと。バーチャル店舗の類が模索されていた20世紀の終盤には、バーチャルの反対をあらわす用語として、よく耳にした覚えがあります。どこまで行っても、タンジブルの魅力は大きく、移動販売の再興もそうした文脈の上にある販売方法、販促方法のひとつです。
思えば、昭和の時代からあった売り方でもあるのですが。

移動販売。街の姿のかわりかたとともに、気にとめておきたい動きです。

■移動販売そのものの機能に焦点をあて、大きく展開している事業者も知られています。よく注目されてきたのは、「とくし丸」 。

移動スーパー とくし丸 HP
https://www.tokushimaru.jp
 創業者住友達也氏の紹介記事 
https://www.nec-nexs.com/bizsupli/column/tokushimaru/
とくし丸は、さまざまなかたちで取り上げられていますが、創業者の住友達也氏は、次のステップに進まれているとのことです。とくし丸HPのなかには創業日記が載っています。https://www.tokushimaru.jp/blog/
興味あるかたは、どうぞ起業当初の日記にまで遡って一読を。

「とくし丸」が参考事例となっている研究などの例はこちら
(1)移動販売の実態把握と分析 -東京都における事例- (公社)日本都市計画学 会 都市計画報告集
https://www.cpij.or.jp/com/ac/reports/20_284.pdf
(2)買物弱者応援マニュアルver3.0.  2015年
https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/150427_manual_2.pdf
 

■移動販売の開業についての、従前の教科書的な基本解説はこちら 
業種別開業ガイド「移動販売」
https://j-net21.smrj.go.jp/startup/guide/restaurant/g022.html

 


■執筆者プロフィール

松井 宏次(まつい ひろつぐ)

ITコーディネータ 中小企業診断士 1級カラーコーディネーター

健康経営アドバイザー

焚き火倶楽部京都 ファウンダー