マイナンバーカードの普及状況について思うこと / 池内正晴

1. なかなか普及が進まないマイナンバーカード

 皆さんは、マイナンバーカードをお持ちでしょうか。現時点での普及率としては、やっと40%を超えたという状況であり、なかなか普及が進んでいないのが現状である。
 私の周りにも、マイナンバーカードの交付を受けていない人が多くいるのだが、なぜ交付を受けないのかという問いに対しての答えはいくつかある。

 ある人は、マイナンバー制度に賛同できないので、マイナンバーカードの交付を受けていないという。だが、たとえカードの交付を受けておらずとも、その人に対してマイナンバーは付けられており、納税や社会保障関連の情報は、そのナンバーですでに管理されているのである。

 またある人は、マイナンバーカードとしてマイナンバーを持ち歩いていて、落とした際に悪用されるリスクがあるのでマイナンバーカードは作らないという。マイナンバー自体は他人の目に触れても、すぐにそれを悪用するということは不可能であるが、カードに記載の住所などの個人情報は、悪用される恐れがある。しかし、これは運転免許証など他のカード類についても同じことがいえるので、マイナンバーカードが特別危険ということではない。なお、マイナンバーカードには電子証明書用のICチップが搭載されているが、これを使用するためには、パスワードが必要となるので、大きなリスクになるとは考えにくい。
 落とした際のリスクが、マイナンバーカードと同等もしくはそれ以上ある運転免許証やクレジットカードなどは持ち歩くのに、なぜマイナンバーカードを持ち歩くことをリスクと考えるのであろうか。
運転免許証やクレジットカードは、自動車を運転したり買い物をしたりする際には必要となるものである。もちろん、落とした際のリスクはあるが、それを上回る必要性や利便性があるから持ち歩くのである。一方。マイナンバーカードを持ち歩くことに関しては、リスクを上回る必要性や利便性が感じられないためであると考えられる。


2.マイナンバーカード普及に向けた施策

マイナンバーカード普及のための施策として、マイナポイント事業が行われている。マイナンバーカードを取得して、キャッシュレス決済を利用するだけで5,000円がもらえるという制度が作られたが、現在の普及率は4割程度であり、爆発的に普及するといった状況にはなっていない。日本におけるキャッシュレス決済比率は他国に比べて非常に少ないという状況を変化させる起爆剤として効果も狙う二兎を追うような制度である影響もあるかもしれないが、期待通りの効果が出ているかは疑問である。


3.マイナンバーカードを取得してみた

私自身も、マイナポイント制度ができたタイミングで、マイナンバーカードを取得した一人ではあるが、この制度のためだけでマイナンバーカードを取得しようと思ったのではなく、マイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになり、将来的には運転免許証なども統合する方向で検討が進められているという情報を得たことが一番の理由である。
しかし、カードを取得してから1年近く経ち、医療機関を利用する機会が何回もあったが、未だににマイナンバーカードを健康保険証として利用できる状況に出会ったことがない。結局、私自身がマイナンバーカードを作成したメリットは、マイナポイントで頂いた5,000円のみで、それ以外の必要性や利便性を全く感じることはなかった。個人事業主としてe-Taxを利用されている方であれば、電子証明書としての利用用途はあるかもしれないが、それ以外の方で実際にマイナンバーカードを利用された方は、どれだけいるのだろうという状況においては、普及が進まないことは仕方ない状況であろう。


4.マイナンバーカードを利用する機会との巡り合い

これまで必要性や利便性がなかったマイナンバーカードであるが、先日に初めて利用する機会に巡り合えた。
スマートフォンに新型コロナワクチンの接種証明書アプリをインストールし、セットアップする際にマイナンバーカードが必要となり、カードを使用することにより、ワクチンの接種記録が即時に表示されることができた。
これは、私のワクチン接種情報が厚生労働省において医療情報としてマイナンバーを付加した状態で管理されているとともに、マイナンバーカードの電子証明書により、アプリをインストールしたスマートフォンが間違いなく私のものであると証明されたことにより、即時に情報を表示することが可能になったのである。
マイナンバーカードがなかった時代に、国などが管理している個人情報にインターネット経由でアクセスしようとする場合は、本人確認の作業が非常に煩雑で時間がかかるものであった。例えば「ねんきんネット」を初めて利用する際には、基礎年金番号と住所など複数の情報を組み合わせて登録を行い、役所のほうで本人であると確認が取れた者に対して数日後にIDが発行され、それから個人情報にアクセスできるようになるといった状況であった。

マイナンバー制度は、個人情報を国などが管理するための仕組みであることに対して、マイナンバーカードは、その情報を我々が活用するための仕組みなのである。今後、さらに利便性が増していって、マイナポイントなどがなくても、多くの人がマイナンバーカードを取得する世の中になってほしいと願っている。


5.マイナンバーカード普及に向けて

国として、行政サービスのデジタル・トランスフォーメーションを進めていくためには、マイナンバーカードが必要なことは理解できるのであるが、先にカードを普及させることに注力するのではなく、カードによる利便性を飛躍的に向上させることを優先的に取り組んでいただきたい。そうすることにより、マイナンバーカードの普及率は結果として上がってくると思う。
言い換えれば、マイナポイント制度にお金を使うのではなく、そのお金を新しい仕組みの構築に活用したほうが、日本の国のためになるのではないかと思う。

マイナンバーカード利用の良い例として取り上げたスマートフォンによるワクチン接種証明書の仕組みだが、せっかく1回~2回目接種の内容や日付などを表示したりすることができたのだから、これを活用して3回目のワクチン接種がすぐにできるようにならなかったものだろうか。早めに3回目のワクチン接種を受けようと思っていたのだが、郵送で送られてくる紙の接種券の到着を待って、インターネットで紙に記載されている接種番号を入力して、接種の申し込みを行うといった状態であった。
接種証明書アプリは厚生労働省の仕事で、接種券の発送は地方自治体の仕事だから仕方ないという声も聞こえてきそうであるが、その壁を超えるための仕組みがマイナンバーであるわけであるから、デジタル庁などが中心となって、良い仕組みを作っていただけることを期待したい。

 

 


■執筆者プロフィール

 池内 正晴(Masaharu Ikeuchi)

 学校法人聖パウロ学園

    光泉中学・高等学校

 ITコーディネータ