とても有名な事例なので、ご存じの方も多いと思いますが、中小企業での分かりやすいDX事例を紹介します。
ゑびやさんは、三重県伊勢市で商店(土産物店)や和食堂・屋台などの商業施設を営む創業100年の老舗です。
2012年(改革以前)の状況は、来店客の需要予測が勘で行われており、仕入れや、調理ロスがかなり発生。結果、経営状態は悪化、従業員も疲弊しているという状況でした。
そこで、データ分析による来店客予測に取り組むことにしました。監視カメラと交通量調査に画像解析AIを組み込み、売上データ、天候、曜日、近隣の宿泊者数など150種のデータを元に、どの時間帯に何人の来客があるか、注文メニュー数を予測するようにしました。
翌日の来客数を90%以上の確率で予測できるようになり、結果、廃棄ロスを70%削減でき、原価の大幅な削減が可能となり、料理の質も単価も上昇させることができたのです。
数字面では、売上が6年間で4倍、営業利益が12倍に、平均給与も5万円アップさせることができただけでなく、従業員の働き方改革:残業無し、完全週休2日制、有給休暇取得率80%、特別休暇の付与なども実現できることができました。
ゑびやさんのDXの取り組みが成功した一番のポイントは、現状ビジネスに対しての強い危機感があったことにあります。現在のビジネスの行き詰まりの原因が、調理ロスにあることであると見極め、そこを解決する手段として、最近の技術を活用した需要予測にチャレンジしたのです。もちろん、この取り組みには専門家のサポートが必要なのですが、このようなデータ分析は難しいものではありません。150種のデータとありますが、売り上げ変動に影響を与えそうな要素を、現場の肌感覚も大事にしながらリストアップし、それをもとに専門家が予測モデルを構築します。あちらこちらでチャレンジされている内容なので参考事例も多く、決して最先端の取り組みではありません。大学院生でもできるレベルです。
難しい、無理だと思わずに取り組んだところ、大変な好循環につながったわけです。
ここ数年でAI、IoT、データ分析についての実践事例は飛躍的に増加しており、中小企業でも、パッケージアプリを買うような感覚で利用できるようになってきています。
使える手ごろな道具はそろっています。経営者の危機感の欠如が日本のDX推進の最大の課題となりつつあります。
■執筆者プロフィール
氏名:宗平 順己(むねひら としみ)
所属:武庫川女子大学経営学部教授
ITコーディネータ京都 副理事長
Kyotoビジネスデザインラボ 代表社員
資格:ITコーディネータ、公認システム監査人
URL:https://www.kyoto-bdl.com/
専門分野
・デジタルトランスフォーメーション
・サービスデザイン(デザイン思考)
・クラウド
・BSC(Balanced Scorecard)
・IT投資マネジメント
・ビジネスモデリング
・エンタープライズ・アーキテクチャ などなど
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